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東京高等裁判所 平成6年(行ケ)166号 判決 1996年3月07日

アメリカ合衆国

08809-4000 ニュージャージー州 クリントン ペリービル・コーポリット・パーク

原告

フォスター・ホイーラー・エナージイ・コーポレイション

同代表者

ジャック・イー・デオンズ

同訴訟代理人弁理士

兼坂眞

酒井一

東京都千代田区霞が関3丁目4番3号

被告

特許庁長官 清川佑二

同指定代理人

中野修身

吉村康男

花岡明子

関口博

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

この判決に対する上告のための附加期間を90日と定める。

事実

第1  当事者の求めた裁判

1  原告

「特許庁が平成2年審判第16325号事件について平成6年2月10日にした審決を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決

2  被告

主文第1、2項と同旨の判決

第2  請求の原因

1  特許庁における手続の経緯

原告は、昭和60年2月15日、名称を「コークスに調節処理を施す方法」とする発明(以下「本願発明」という。)につき、アメリカ合衆国における1984年3月12日付け特許出願に基づく優先権を主張して、特許出願(特願昭60-26635号)したが、平成2年5月16日、拒絶査定を受けたので、同年9月10日、審判を請求した。特許庁は、この請求を平成2年審判第16325号事件として審理した結果、平成6年2月10日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決(出訴期間として90日附加)をし、その謄本は、平成6年3月16日原告に送達された。

2  本願発明の要旨(特許請求の範囲の記載)

コークスに調節処理を施す方法であって、

ⅰ)3基のコークス・ドラムのうちの第1のコークス・ドラムに原料コークスを供給して、前記第1のコークス・ドラムにコークスを形成する工程と、

ⅱ)コークス化装置の分溜器からの高温度の蒸気を含むコークス化装置生成物の調節処理流体を、形成したコークスに流すことにより、前記第1のコークス・ドラムのコークスを調節処理してその1以上の性質を改善すると同時に、前記3基のコークス・ドラムのうちの第2のコークス・ドラムに原料コークスを供給して、前記第2のコークス・ドラムにコークスを形成する工程と、

ⅲ)前記第1のコークス・ドラムからコークスを取り出すと同時に、コークス化装置の分溜器からの高温度の蒸気を含むコークス化装置生成物の調節処理流体を、形成したコークスに流すことにより、前記第2のコークス・ドラムにおいてコークスを調節処理してその1以上の性質を改善し、前記3基のコークス・ドラムのうちの第3のコークス・ドラムに原料コークスを供給して、前記第3のコークス・ドラムにコークスを形成する工程と、

ⅳ)前記第2のコークス・ドラムからコークスを取り出すと同時に、コークス化装置の分溜器からの高温度の蒸気を含むコークス化装置生成物の調節処理流体を、形成したコークスに流すことにより、前記第3のコークス・ドラムにおいてコークスを調節処理してその1以上の性質を改善し、前記第1のコークス・ドラムに原料コークスを供給して、前記第1のコークス・ドラムにコークスを形成する工程と、

ⅴ)前記第3のコークス・ドラムからコークスを取り出すと同時に、コークス化装置の分溜器からの高温度の蒸気を含むコークス化装置生成物の調節処理流体を、形成したコークスに流すことにより、前記第1のコークス・ドラムにおいてコークスを調節処理してその1以上の性質を改善し、前記第2のコークス・ドラムに原料コークスを供給して、前記第2のコークス・ドラムにコークスを形成する工程と、

ⅵ)前記工程ⅲ)~ⅴ)を反復する工程

とを含むコークスに調節処理を施す方法。

3  審決の理由の要点

(1)  本願発明の要旨は、前項記載のとおりである。

(2)  特開昭57-121089号公報(以下「第1引用例」という。)には、

「1.コークス化原料をコーカー加熱炉中で加熱してコークス化ドラムに導入しそしてコークス化が進行してコークスが該コークス化ドラム中に所望の水準まで充填された後にコークス化原料の導入を停止することによって該コークス化ドラムを切離し、上記操作を別のコークス化ドラムについて反復することからなるコークス化原料の遅延コークス化法において、コークス化ドラムの切離し前の該コークス化ドラム中でのコークス化原料のコークス化を415℃~455℃の温度で行ないそして該コークス化ドラムの切離し後に切離したコークス化ドラムの内容物を450℃~500℃の範囲、ただしさきのコークス化温度よりも少なくとも10℃高い温度に加熱し、しかも該加熱を少なくとも4重量%でかつ10重量%を越えない揮発性可燃性物質含量をもつコークスを取得するに十分な時間行なうことを特徴とする遅延コークス化法。」

が記載されており、この方法においてコークス化を行ってコークス化ドラムの切離した後の処理について、

「切離されたコークス化ドラムの内容物を少なくとも450℃、好ましくは少なくとも460℃でありかつ500℃を越えない、好ましくは480℃を越えない温度であるが、前段のコークス化温度よりは少なくとも10℃、好ましくは少なくとも15℃、より好ましくは少なくとも20℃、高い温度に、(好ましくは加熱した非コークス化蒸気を該コークス化ドラムの内容物中に通送することによって)、最終的に少なくとも4重量%、好ましくは少なくとも5重量パーセントでかつ10重量%、好ましくは8重量パーセントを越えない揮発性可燃性物質含量をもつコークスを取得するに十分な時間、加熱するものである。」こと、及び

「コークス化ドラム内容物の切離し後加熱は非コークス化蒸気の使用によって達成される。この目的に適当な物質の代表例としては、軽質コーカー留出油、コーカーガス(C1~C4炭化水素)、水蒸気、窒素及び酸化性ガス以外のその他の非コークス化ガスを挙げることができる。」ことが記載されている。

(3)  本願発明と第1引用例に記載された発明を比較すると、両者は、コークス化を行ったコークスに対して高温度の蒸気を含む調節処理流体を流すことによりコークスの性質を改善する点で一致している。

(4)  しかし、両者は、次の点で相違する。

第1点 本願発明においては、高温度の蒸気を含む調節処理流体がコークス化装置の分溜器からのコークス化装置生成物であるのに対して、第1引用例に記載された発明においては、高温度の蒸気を含む調節処理流体は軽質コーカー留出油、コーカーガス(C1~C4炭化水素)コーカー再循環物やそれに比較的低濃度のコークス化原料を組合わせて用いる点

第2点 本願発明においては、コークスドラムを3基用い、その第1のコークスドラムでコークス化、次にコークスの調節処理を行って、そのときにその第2のコークスドラムでコークス化を行って、その次に第1のコークスドラムではコークスの取出しを行って、そのときに第2のコークスドラムでコークスの調節処理と、その第3のコークスドラムでコークス化を各々行うというように、コークス化、コークスの調節処理及びコークスの取出しの各工程を、一つのコークスドラムで順次行うと共に、その他の二つのコークスドラムでその他の工程を同時に行うのに対して、第1引用例に記載された発明においては、コークスドラムを2基用い、その第1のコークスドラムでコークス化を行い、次にコークスの調節処理と取出しを行って、その時に第2のコークスドラムでコークス化を行うというように、2つの工程を順次行うと共に、他の工程を組合わせて行う点

(5)  相違点第1点について検討する。

第1引用例における、コークス化ドラムの処理がコークス化温度よりも少なくとも10℃高い温度に加熱するものであり、コークス化処理との温度差がこの程度のものであれば、その処理により発生する生成物には、コークス化に際して発生する生成物をも含有していると認められる。そして、本願発明では、コークス化装置の分溜器からの高温度の蒸気を含む流体と(「を」の誤りと認める。)調節処理流体とするものであり、第1引用例ではコークス化に際して生成する軽質コーカー留出油、コーカーガス、コーカー再循環物及びそれに比較的低濃度のコークス化原料を組合わせたものを調節処理流体とするものであることを考慮すると、本願発明で用いる調節処理流体と第1引用例の調節処理流体は、その構成成分の点で格別相違するものとは認めることができない。また、本願発明で用いられる調節処理流体はコークスから揮発性の極めて高い物質をストリッピシグにより取り除きかつコークスを高温度に保つためのものであり、一方、第1引用例の場合の処理においても揮発性可燃物質の含有量を減少させるためのものであるから、作用の点からみても、本願発明の調節処理流体と第1引用例の調節処理流体が格別相違するものとも認められない。そして、本願発明のコークス化装置の分溜器からの高温度の蒸気を含むコークス化装置生成物の調節処理流体によって得られる効果にして、第1引用例の場合の効果と比較して具体的にどのようなものであるということも本願明細書中の記載からみて明らかでない。結局、本願発明で用いる調節処理流体をコークス化装置の分溜器からの高温度の蒸気を含むコークス化装置生成物とすることは第1引用例に記載されたことがらから容易に定めうる程度のものであって、技術上格別のものとは認めることができない。

(6)  相違点第2点について検討する。

炭化水素のコークス化において、コークスドラムを本願発明の場合と同じく3基設置して行うことは、米国特許第2199759号明細書(以下「第2引用例」という。)、幸書房編集部編 ペトロケミカル2石油精製法

1962年5月15日 株式会社幸書房発行25頁(以下「第3引用例」という。)などにより本出願前公知である。

そして、一連のコークス化の操作として、コークス化、調節処理及びコークス取出しの3工程が知られているときに、各々の工程を3個のコークスドラムに対応させて行い、その工程と併せて順次交代させてかつそれらを組合わせて行うようにすることは、当業者が適宜行うことがらであると認められる。

そして、本願発明の場合に得られる効果が予期しえない程度のものとも認めることができない。

(7)  したがって、本願発明は、第1ないし第3引用例に記載されたものに基づいて当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

4  審決を取り消すべき事由

審決の理由の要点(1)ないし(3)は認める。同(4)は認めるが、相違点は他にもある。同(5)は認める。同(6)のうち、炭化水素のコークス化を3基のコークスドラムを設置して行うことが本出願前公知であること及び一連のコークス化の操作として、コークス化、調節処理及びコークス取出しの3工程が知られていることは認めるが、その余は争う。同(7)は争う。

審決は、本願発明と引用例に記載のものとの相違点を看過し、また、相違点に対する判断を誤った結果、進歩性の判断を誤ったものであるから、違法として取り消されるべきである。

(1)  取消事由1(相違点の看過)

<1> 第1引用例においては、コークス化を行ってコークスドラムの切離し前の該コークスドラム中でのコークス化原料のコークス化温度を、通常の使用されている温度よりも低いコークス化温度(415℃ないし455℃)で行うことを必須の構成要件としているのに対し、本願発明においては、そのような通常のコークス化温度よりも低い温度でコークス化を行うことを必須の構成要件としていない点で相違する。

<2> 本願発明においては、コークス化装置の分溜器からの高温度の蒸気を含むコークス化装置生成物の調節処理流体によるコークスの調節処理時間を、コークスを形成するコークス化の時間と同程度に延長することができるものである。このことは、本願明細書に、「コークス化工程(コーキング工程)を中断することなくコクスの調節処理時間を長くすることである。」(甲第6号証5頁10行ないし12行)と記載されていることから明らかである。これに対して、第1引用例においては、コークスの調節処理時間と取出し時間との和はコークス化時間と同一か又はそれより短くなければならず、コークスの取出しに要する時間を勘案すれば、第1引用例におけるコークスの調節処理時間は、長くてもコークス化の時間の3分の1程度が意図されているにすぎない。

(2)  取消事由2(相違点に対する判断の誤り)

<1> 審決は、「一連のコークス化の操作として、コークス化、調節処理及びコークス取出しの3工程が知られているときに、各々の工程を3個のコークスドラムに対応させて行い、その工程と併せて順次交代させてかつそれらを組合わせて行うようにすることは、当業者が適宜行うことがらである」と認定しているが、誤りである。

第2引用例における3基のコークスドラムを使用した一連のコークス化操作は、2基以上のコークスドラムで実施可能な方法における3基のコークスドラムの使用の例示であって、3基のコークスドラムの使用でのみしか実施できない本願発明の方法が意図されておらず、コークス化時間(36時間)に対し、調節処理時間は約3分の2程度(23ないし24時間)しかなされていない。また、第3引用例には、方法ではなく、単に3基のコークスドラムを備えた装置が記載されているにすぎず、3工程をどのような時間配分で行うかについては全く触れるところがない。

さらに、第2引用例では、高温の蒸気を含む調節処理流体をコークスの調節処理に当たって用いることなく、コークスの温度を保持することにより調節処理を行っており、第3引用例においても、高温の蒸気を含む調節処理流体を供給する配管が図示されていないことからコークスの調節処理はコークスの温度を保持することにより行われることが示唆される。高温の蒸気を含む調節処理流体を用いないコークスの調節処理においては、コークス化時間と同程度まで調節時間を延長させてコークスの針状結晶を成長させようとの試みはされておらず、コークスの調節処理を延長させても更にコークスの特性が改善されるとは考えられていなかったのである。

以上のとおり、第2及び第3引用例には、コークス化、調節処理及びコークス取出しの3工程を3個のドラムに対応させて順次行うこと並びにコークスの調節処理をコークス化と同時間程度に延長させることのいずれの点についても教示又は示唆するところがないのである。

<2> 本願発明の構成により、第1引用例に開示される特別の温度制御を行わずに、調節処理時間を延長しないものに比し、コークスの特性を改善することができるとともに、効率的な装置容量の設計を行うことができるいう作用効果を奏するものである。

第3  請求の原因に対する認否及び反論

1  請求の原因1ないし3は認める。同4は争う。審決の認定、判断は正当であって、原告主張の誤りはない。

2  反論

(1)  取消事由1について

<1> 原告は、審決は本願発明が特別な温度調整を必須要件としていないことを看過している旨主張するが、この点は実質上の相違点ではない。本願発明の特許請求の範囲にはコークス化の温度限定がないが、このことは、本願発明が第1引用例のように通常のコークス化温度よりも低温の場合も、また通常のコークス化温度を用いる場合も含むことを意味するものである。

<2> 本願発明の要旨は、特許請求の範囲に記載されているように、コークス化、調節処理時間及びコークス取出しの各工程をサイクル化することにあり、「コークスの調節処理時間とコークス化の時間を同程度にする」ことではない。

原告は、第1引用例ではコークスの調節処理の時間はコークス化時間の3分の1程度である旨主張する。しかし、第1引用例の明細書には、コークスの調節処理時間は、原料及び加熱時間等に応じて変動すること、多くの場合4ないし24時間程度行うことも記載されていること(甲第3号証3頁左上欄19行ないし右上欄6行)を考慮すると、第1引用例におけるコークスの調節処理時間は長くてもコークス化の3分の1程度が意図されているにすぎないとは直ちにいえるものではない。

仮に、本願発明においてコークスの調節処理時間をコークス化の時間と同程度に延長させることが相違点になるとしても、本願発明においては、3つの工程を1つのコークスドラムで順次行いかつ、3つのコークスドラム間で順次1工程の時間だけずらせて、繰り返し行うものであるから、前記3つの工程をほぼ等しい時間で行うことになる。これに対し、第1引用例においては、一方のコークスドラムで行う工程の時間と、他方のコークスドラムで行う工程の時間が必ずしも同程度であるわけではない。したがって、審決は、この点につき相違点第2点の中で当然考慮したものである。

(2)  取消事由2について

<1> 第2及び第3引用例においては、コークスドラムを3基設置することが記載され、特に第3引用例ではディレイドコーキング法においてコークスドラムを3基用いた例が示されている。

一連のコークス製造操作として、コークス化、調節処理及びコークス取出しの3工程が知られていること並びにこれら3工程を連続して行うことは、原告も認めているように、本出願前周知の従来技術である。

そして、コークスの調節処理時間は、必ずしも常に一定というわけでなく、原料や目的とするコークスの種類に応じて変動可能なものであるから、これをコークス化時間及び又はコークス取出し時間に合わせることは、適宜行えるところと認められる。ここで、コークス化時間及びコークス取出し時間は目的に応じて適宜な時間を設定できるから、前記3つの工程を連続して行うに際して、各工程を適宜な時間で行いかつ同程度の時間とすることは、3基のコークスドラムの効率的運転を図る上で、適宜行えるところと認められ、当業者にとって格別の創意を要するほどのものとは認められない。

<2> 本願発明より生成するコークスの特性については、本願明細書に「調節処理流体は、コークスの揮発物含有量を減少させ、硬度を高め、結晶化度を高めて熱膨張係数を低下させることにより、コークスの特性を改善する」(甲第6号証8頁10行ないし13行)と記載されているだけであり、従来技術としてのディレイド・コーキングにより生成されるコークスの特性に比し、格別の差異があるとは認められない。また、本願発明は、コークス化、調節処理、コークス取出しの3工程を同程度の時間にするものであるとしても、どの程度の時間にするかについて、特許請求の範囲において何ら規定していない。ディレイドコーキング法においては、コークスの特性は、コークス化、調節処理の時間に依存することは明らかであるから、絶対時間を規定していない本願発明では、得られるコークスの特性が一定ではないことは明らかである。

効率的な装置容量の設計を行うことができるとの点も、格別のものではない。

第4  証拠

証拠関係は、本件記録中の書証目録記載のとおりであって、書証の成立はいずれも当事者間に争いがない。

理由

1  請求の原因1(特許庁における手続の経緯)、同2(本願発明の要旨)及び同3(審決の理由の要点)については、当事者間に争いがない。

そして、審決の理由の要点(1)ないし(5)は、当事者間に争いがない(ただし、原告は、(4)の他にも相違点があると主張する。)。

2  本願明細書(甲第6号証3頁15行ないし6頁11行、12頁末行ないし13頁11行及び14頁5行ないし15行並びに甲第9号証3頁10行ないし4頁11行)によれば、本願発明の概要は、次のとおり記載されていることが認められる。

<従来技術>

ジレード・コーキング法において、一般に針状コークスと呼ばれている異方性のコークスを製造する場合、反応室すなわちコークス・ドラム内部で形成されたコークスに幾種かの方法で調節処理を加えるのが普通である。調節処理を加える方法としては、

(1)  コークス形成時、特にコークス形成の終期段階でドラム温度を上げる方法、

(2)  コークス形成後、コークス・ドラムへの新たな供給物の装入を止め、コークス化装置の生成物の全部又は一部を高温度の蒸気としてすでに生成された塊状コークスに循環させる方法、

(3)  既に形成されたコークスを339℃(700°F)以上の温度に保持する方法等がある。

上述の「均熱温度処理」(・・・)又は「完全乾燥」(・・・)と呼ばれている方法は、異方性コークスの一つ又は二つ以上の特性を調節または改善するために採用される。改善される特性は、(1)揮発性物質の低減、(2)硬度の増加、(3)低い熱膨張率をもたらす結晶化度の増大である。

一般の慣例では、その場で行うコークス調製の量はプロセスの単位容量規定に見合うドラム寸法の大きさによって制限がある。一定の操作サイクルの時間内に完全にドラムからコークスを取り出して供給原料を受け入れることができるようにしなければならないので、コークスの調節処理に利用できる時間は普通8時間に満たない。従って、コークスの特定の特性を改善できる量は、限られてしまう。

<発明の目的>

従って、本発明の目的は、コークスの調節処理時間を長くできるようにすることである。

本発明の他の目的は、コークス化工程(コーキング工程)を中断することなくコークスの調節処理時間を長くすることである。

<発明の構成>

上述及びその他の目的を達成するために、本発明の方法では反応室即ちコークス・ドラムを追加使用してコークスの調節処理に充当する時間を長くしコークスの諸特性を大幅に改善することができる。一例を挙げると、所望するコークスの特性を得るために全処理サイクル時間が48時間の場合において、従来法では2基のコークス・ドラム処理ユニットが必要だとすると、第三のドラムを使用すればコークスの調節処理時間を延長することができる。従来法のユニットにおいては、各ドラムは交互に24時間のコークス形成工程と24時間のコークス取出し工程とに連続使用されている。本発明においては、他の二つのドラムと同じ大きさの第三のドラムにより、各ドラムは以下の作動モードで連続的に且つ交互に運転される。

(1)  24時間のコークス形成モード、

(2)  24時間の調節処理モード、

(3)  24時間のコークス取出しモード。

・・・

<実施例>

・・・本発明による方法に従うと、第2B図及び第2C図(別紙図面参照)から分かるように、もう一つのドラム即ちドラムCを追加使用することにより、調節処理時間を大幅に増加することができる。一例を挙げると、第2B図に示す72時間のサイクルにおいては、従来法におけると同様に、コークス化又はコークス形成が24時間にわたって行われる。しかも、調節処理及びコークス取出しも各々24時間にわたって続行することができる。第2B図の方法では、第2A図の方法で出されるコークスと同量のコークスが出され、しかも調節処理に利用できる時間が遙かに長い。・・・

第2C図から分かるように、たとえば本発明による方法の全操作サイクル時間を54時間に減少させることができ、先行技術の方法で可能であったよりも多量の調節処理済みのコークス産出量とすることができる。第2C図に示す例では、コークス化時間を24時間から約18時間に減らし、調節処理時間及びコークス取出し時間も同様に18時間にしてある。それでも、調節処理及びコークス取出しに与えられる時間はこれらの二工程を組み合わせた従来の場合よりも50%増える。

3  原告主張の取消事由の当否について検討する。

(1)  取消事由1について

<1>  前記1に説示の本願発明の要旨(特許請求の範囲)によれば、本願発明は、コークス化温度、調節処理温度及びそれらの相対関係を規定するものではなく、したがって、本願発明は、第1引用例の発明が規定する温度条件のものを排斥するものとは認められないから、温度条件の点において、原告主張の相違点の看過があるとすることはできない。

<2>  前記2に説示のとおり、従来例で採用されていた2基のドラムを使用するコークスに調節処理を施す方法では、コークスの調節処理に当てることのできる時間は、コークス化時間に比し、コークスの取出しに要する時間分だけ短くならざるを得なかったが、本願発明は、3基のドラムを使用し、コークス化工程と調節処理工程とコークス取出し工程との3工程をその3基のドラムにおいて順次切り替えてサイクル化することにより、2基のドラムを使用しコークスの取出しにかなりの時間を要した従来例に比し、同容量の第3のドラムを追加する場合はもちろん、容量を3分の2にしたドラムを3基使用する場合においても、コークス化工程と調節処理工程との時間を同程度とし、コークスの調節処理時間を増やすことができるものである。

しかしながら、前記1に説示の審決の理由の要点によれば、審決は、相違点の第2点として、本願発明が3基のコークスドラムを使用してコークス化、調節処理及びコークス取出しの各工程を順次切り替えてサイクル化することを取り上げているから、その結果生ずるコークス化工程と調節処理工程との時間を同程度とし、コークスの調節処理時間を増やすことができる点は、上記相違点の第2点の中に実質上包含されていると解される。したがって、調節処理時間の延長の点についても原告主張の相違点の看過があるとすることはできない。

(2)  取消事由2について

<1>  炭化水素のコークス化を3基のコークスドラムを設置して行うことが本出願前公知であること並びに一連のコークス化の操作として、コークス化、調節処理及びコークス取出しの3工程が知られていること(審決の理由の要点(6)の一部)は、当事者間に争いがない。そして、第3引用例(甲第5号証)がディレイドコーキング法についての解説書であることからすると、第1引用例に記載の発明におけるコークス調節処理流体を用いるディレイドコーキング法に、コークス化ドラムが3基設置される第2及び第3引用例に記載のものを組み合わせることは、当業者にとって容易であると認められる。

次に、ディレイドコーキング法では上記3工程があることが知られている以上、3基のドラムを設置して運転する際、3基のコークスドラムを効率的に使用するためには、3工程をそれぞれ3基に割り当てて順次交代させることが、一番無駄がないことは明らかである。そして、3工程を3基のドラムにそれぞれ対応させるとすれば、自らそれらのコークス化時間と調節処理時間とは同程度の時間にすることができる。

そうすると、3基のコークスドラムを使用してサイクル化することにより、コークス化工程と調節処理工程との時間を同程度とし、コークスの調節処理時間を増やすことができるようにすることは、当業者が容易に想到することができることと認められる。

<2>  原告は、コークス化、調節処理及びコークス取出しの3工程を3個のドラムに対応させて順次行うことは容易に推考できることではないと主張するけれども、この主張が理由がないことは上記に説示したところから明らかである。

さらに、原告は、コークス化、調節処理及びコークス取出しの3工程を3個のドラムに対応させて順次行うものにおいて、コークスの調節処理時間をコークス化時間と同程度に延長させることは容易に推考できることではないと主張する。しかしながら、第1引用例の「コークス化ドラムを切離した後、前記したごとき揮発性可燃性物質含量をもつコークスを生成するために必要な時間は生成コークス、かかるコークスの製造に使用される原料及び加熱温度に応じて変動するであろう。しかしながら、多くの場合、かかる揮発性可燃性物質含量の減少は4ないし24時間程度の時間の切離し後加熱(・・・)によって達成可能である。」(甲第3号証3頁左上欄下から2行ないし右上欄6行)、「コークス化ドラムが充填された後、該コークス化ドラムを切離しそしてその内容物を450℃~500℃の範囲内であるが、前段のコークス化温度よりも少なくとも10℃高い温度にその揮発性可燃性成分含量を前記規定した値まで低減するに十分な時間加熱する」(同5頁左上欄1行ないし6行)との記載によれば、コークス特性を改善するための調節処理が、揮発性物質の除去を主たる目的とすること、及び、調節処理に時間をかければ揮発性物質の含量が低減されることが周知であったと認められる。したがって、当業者であれば、第1引用例の発明に第2及び第3引用例に記載のものを組み合わせたものにおいて、調節処理時間を延長してコークス特性を改善することに容易に想到することができたものと認められ、原告の上記主張は採用できない。

<3>  そして、調節処理時間を延長したコークスの特性がその予測以上に改善されることを認めるに足りる証拠はない。

また、原告は、3基のコークスドラムで3工程をサイクル化してコークス化を行うために、効率的な装置容量の設計を行うことができるという作用効果を生ずると主張する。しかしながら、乙第1号証(砂越竹夫「石油コーキング」燃料協会誌44巻453号・昭和40年1月発行)の「特に大きな能力の装置は、ドラム製作上の制約もあるので、3~4基のドラムを備えて、もっと短時間で逐次切替えて使用しているところもある。」(10頁右欄26行ないし29行)との記載からすると、ドラム数を増加して能力に応じる容量に設計することができるという効果は、当業者にとって予測し得ることと認められる。

<4>  したがって、以上説示したところと同旨と認められる審決の判断に誤りはなく、相違点に対する判断の誤りをいう原告の主張は理由がない。

4  よって、原告の本訴請求は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担及び上告のための附加期間の定めについて行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条、158条2項を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 伊藤博 裁判官 濵崎浩一 裁判官 市川正巳)

別紙図面

<省略>

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